Inspiring People & Projectsでは、3編のチャプターに分け「こんぶ土居」のインスパイリングな取り組みをフィルムを通じ伝えています。
僕たち(ippのクルー)が撮影を通して土居さんとのコミュニケーションで感じた空気感や共有したメッセージなどは、映像から感じていただけると思います。しかし、映像を媒介にするということは「再生時間」という制約に拘束され、数十時間に渡って記録された現場でのコミュニケーションは、編集作業により、全編合わせても30分以下へと凝縮されてしまいます。
その結果、重要でありながらもどうしても収録できなかった、言わば溢れてしまった”エピソード”があります。
『昆布そのもの』について。『昆布漁』についてです。
僕たちは、収録したインタビューの書き起こしと、土居さん自身が昆布漁に通いながら自ら撮影された写真と共に、この貴重な情報を
補完したいと思います。身近な食材でありながら知っているようで知らない、これらのことは日々の食卓で重要なことだと僕たちは考えます。
・土居さんが扱う昆布は、何処から来るのですか?(以下、土居さんインタビュー映像からの書き起こし)
道南です。函館の近くなんですけど、代々そこです。昔からいい昆布は、ここで採れると決まってますので。江戸時代に松前藩へ献上されてた昆布が、ある浜の昆布が指定されていたんですね。北海道の函館のちかくの、南茅部というエリアの昆布なんですけど、それをずっとうちは、創業以来ずっと使い続けてきたので、いまでもそれを使ってます。いい昆布っていうのは、非常に限られた場所でしかとれないので、
そこから、離れるとクオリティも断然違ってくるんです。昆布は、人間が品種改良した訳ではないんですけども、種類が沢山あり基本的に
天然のモノなので、おいしい品種の昆布が生えてるエリアっていうのは、もう決まってくるので、あとは同じ品種であっても、海底の環境であったりだとか、水流であったりだとかね、そういうことでクオリティは結構かわってくるんです。
・昆布漁といっても、イメージするのが難しいのですが、どんな様子ですか?
まず、昆布は海底の岩盤であったり岩であったり、硬い所に昆布の胞子が付着しまして、そこから赤ちゃん昆布が育ってくる訳なんですよね。海底からだんだん、ちょっとづつ伸びていって、根をはって最終的にはゆらゆらと海中を漂っているようになるんですけどね。
採取できるまで、丸二年かけて良い大きさに育つんです。そして、昆布が生えているのが10~15mが最深の水深なので、船を出すんですよね。実際漁船を出して、そこから箱メガネってわかりますかね。海中を覗くんですよね。で、あそこに昆布が生えてるなというのを見つけまして、あの先が二股になった長い竿をですね、水面から突っ込んで、昆布をめがけて差し込むわけですね。それを捻るんです。竿を。捻ったら、当然先の二股部分もねじれますんで、昆布に引っ掛かって、絡まって外れなくなる。それを引っ張りあげて、剥がし取るのです。
先端が二股に分かれた「まっか」と呼ばれる棹に巻きつけて引き上げられる昆布。
(写真左)引き上げられたばかりの天然真昆布。左右の「耳」と呼ばれるヒダは、最終的に切り落とされる。
(写真右)乾燥時間と温度が、昆布の品質を決める最も重要な乾燥のプロセス。
・最近は天然だけでなく養殖も扱っていると聞きました。詳しく教えて下さい。
養殖といっても、例えば魚の養殖だったら、配合飼料やりますよね。そこには薬が入っていたりだとか、抗生物質が入っていたりとかということもある。そもそも魚が自然に食べているモノとは、質的には違うので、天然の魚と養殖の魚でクオリティの違いが出てくるのは当然だと思うんですよね。ところが昆布は餌やらないんですよ。もちろん農薬もやらないです。昆布は植物なので農業的ではありますけど、完全無農薬、
完全無肥料栽培の、海面の農業だと思ってもらえたら良いと思います。そういうの考えると何も悪くはないんですよ。ただ、残念ながら味は
天然と比べると落ちるというのは間違いないですけど。やはり、それでも天然のモノは味が違うんです。これは面白いですね。何でしょうね、養殖昆布、温室育ちなんでしょうね。パワーが足りないんです。野生児はやっぱり強いんです。ワイルドなやつは強いんです。
創業以来、基本的には天然の昆布ばっかりでやっていましたが、僕の代になってからは一部養殖を扱うようになった。これは何故かというと、なぜその販売を始めたかというと、僕の代から昆布漁の手伝いに毎年浜に通うようになって、漁師さんと一緒に仕事、夏になったらしてるんですよね。北海道の昆布漁師にとって、天然昆布っていうのはまず収穫量がわずかですし、年によって豊作、不作が激しく変動するので、そこに生活のベースを置いている訳ではないんですね。養殖昆布と、それより更にさがる促成栽培の昆布もあるんですけど、そのへんが収入のメインなんです。ところがウチみたいな昆布屋が、いや、促成も養殖も、いっさい要らんねんと、うちは天然の昆布だけくれっていうのは、北海道の昆布漁師の人たちから見ると、あまり面白い話ではないんだろうと。僕は一緒に仕事してくる中で見えてくるんですよね。天然昆布だけくれと言うのは、昆布屋としてのワガママではないかと、いうような思いが出てきましてね。それで、少し扱うようになったんですけど。
これは、用途を限定して使えば、あの中々いけるところもありまして、非常に好評です。
土居 純一さんは、お店のホームページにある「こんぶ土居通信」で、次の様なことを書いています。
“美味しいモノを食べられるのは、素材を作っていただいている農家や漁師の方のおかげだというのが、
こんぶ土居の考えのひとつです。消費者は良いものをいただいたときは生産者に感謝をし、
生産者は消費者の期待に応えられるものを提供する。そうすることで、良い関係を築くことができるのではないでしょうか。”
陸の上での生産者の情報は、様々な場所で目にすることがありますが、
海の上、殊に昆布漁となれば、まだまだ知る機会は少ないのではないかと思います。
土居 純一さんのインスパイリングな行動と、微力ながら私たちippの映像が
昆布漁師さんと皆さんの食卓の間を繋ぐ、良いキッカケになればと切に願っています。